歯磨きだけで安心してない?虫歯より怖い「歯周病」を予防する10の習慣

あなたは、「歯を磨くと血が出る」「口臭が気になる」「口の中がネバネバする」など、口の中のトラブルで悩んでいませんか?
「最近、歯が伸びたかも。加齢のせい?」と思う人も要注意!
これらの症状がある人は、もしかすると歯周病かもしれません。
日本では、成人の約8割が歯周病に罹患していると言われています。
そして、歯を失う最大の原因も、この歯周病にあります。
最近では、歯周病によって40代で歯を失い、入れ歯を入れなければならない人も珍しくありません。
歯周病や虫歯で歯を失うと、かむ力の低下による胃腸障害やかみ合わせの悪化による運動能力の低下など、様々な問題が引き起こされますが、反対に、口の健康を改善することで全身にも良い影響がもたらされます。
大切な歯と体の健康を守るために、日ごろのケアと生活習慣を見直してみましょう。
歯周病ってどんな病気?
歯周病とは、歯ぐきや歯槽骨など歯の周りの組織が破壊される病気です。
歯と歯ぐきの境目にある歯周ポケットと呼ばれるすき間に歯周病菌が繁殖することで炎症を起こし、歯を支える歯槽骨を溶かしていきます。
そして、重度になると歯を支えることができなくなり、歯が抜け落ちてしまいます。
歯周病は、歯肉炎と歯周炎を合わせた相称で、歯ぐきが軽い炎症を起こした程度の初期の歯周病を「歯肉炎」、炎症が歯槽骨に及ぶまでに進行したものを「歯周炎」といいます。
歯周病セルフチェック
次の項目について、あなたはいくつあてはまりますか?
チェックの数が多いほど歯周病が進行している可能性があります。
- 歯を磨くと血が出る
- 冷たいもので歯がしみる
- 歯ぐきの色が濃い赤色をしている
- 歯ぐきが腫れている
- 歯ぐきを押すとぶよぶよしている
- 歯がグラグラする
- 歯ぐきから出血したり、膿が出ることがある
- 歯が伸びたように見える
- 歯と歯の間に食べ物が詰まりやすくなった
- 硬いものが咬みにくくなった
- 口臭がする
- 口の中がネバネバする
歯周病が及ぼす身体への影響
歯周病が進行すると、歯周ポケット(歯と歯ぐきの境目の溝)がどんどん深くなっていきます。
その歯周ポケットの内側にはたくさんの血管と神経が通っているため、そこを通り道として歯周病菌が全身に運ばれ、様々な病気を引き起こしてしまいます。
ここでは、歯周病と関係が深い主な病気をみてみましょう。
糖尿病
糖尿病とは、高血糖が慢性化している代謝疾患です。
血糖値の高い状態が続くと、白血球の機能は低下し、血管壁がもろくなり、歯肉の循環障害などにより歯周病がし進行しやすくなります。
歯周病が進行すると、歯肉の炎症を抑えるために白血球からサイトカインというたんぱく質が放出されます。このサイトカインは血糖を下げるホルモン(インスリン)の効果を弱める作用があるため、糖尿病を悪化させます。
このように歯周病と糖尿病は切っても切れない関係にあります。
心疾患・脳疾患
歯周病により炎症性物質の数値が高くなると、動脈硬化が起こりやすくなります。
動脈硬化とは、血液中の中性脂肪やコレステロールがたまって粥腫(プラーク)を作り、血管が硬く狭くなることです。このプラークが何かのはずみで破れると、それをふさごうと血小板が集まって血栓をつくり、血管をふさいでしまうことがあります。
この動脈硬化が冠動脈で起これば心臓発作を起こし、脳で起これば脳卒中を起こします。
また、血栓がはがれて別の血管をふさいでしまうこともあります。
早産、低体重児出産
歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない妊婦さんと比べて早産や低体重のリスクが5~7倍高いと言われています。
歯周病の炎症があると、子宮を収縮させる炎症性物質「プロスタグランジンE2」の血中濃度が高くなります。
この物質は陣痛促進剤としても使われるくらい子宮を収縮させる作用が強い物質ですので、歯周病が重症化するほど早産や低体重児の出産リスクが高くなります。
また、妊娠中に歯科診療を受けることを不安に思われるかもしれませんが、歯石を除去するなどの歯周病治療を行っても有害な影響はありません。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
歯周病菌などの細菌が付着した食べかすや唾液が、誤って気管に入ることが原因で肺炎を起こすことがあります。
誤嚥性肺炎は、次の3つの因子が重なり合って生じます。
- 口の中の細菌が増加する
- 気管に細菌が入り込む
- 感染に対する防御機能が低下する
歯周病が悪化すればするほど、口の中の細菌が繁殖するため誤嚥性肺炎になるリスクも高まります。
特に高齢期の人、寝たきりの人など、飲み込む力が低下している人に起こりやすく、死につながることもあります。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
骨粗鬆症とは、骨密度の低下や骨質の劣化によって骨がもろくなり骨折しやすくなる病気で、比較的女性に多く見られます。
骨粗鬆症が進行すると、歯の周りの骨が弱くなるため、健康な人に比べ歯を失いやすい傾向にあります。
また、多く歯を失った人ほど骨粗鬆症になる割合も高くなっています。
特に女性は閉経後、女性ホルモンの影響を受けて骨粗鬆症になるリスクが高くなりますが、健康な歯をもつ女性は骨粗鬆症になる割合が低いと報告されています。
歯周病の進行段階と症状
歯垢(プラーク)を放置しておくと、唾液のカルシウムやミネラルと結びついて硬くなり歯石ができます。歯石はザラザラしているため、この上に歯垢が付きやすく、歯周病が進行する原因となります。
一度付着してしまった歯石は歯磨きだけでは取れないため、歯科医院で定期的に除去してもらいましょう。
歯周病は「プローブ」というメモリのついた器具で歯周ポケットの深さを測って検査します。
歯肉炎(歯周ポケット:2mm~3mm)
【状態】
歯のまわりについた細菌によって歯ぐきが軽い炎症を起こした状態です。
健康な歯ぐきは淡いピンク色をしていますが、歯肉炎を起こしてしまうと赤みが強くなります。
歯と歯の間の歯ぐきが腫れたりします。
歯周ポケットができはじめます。
【症状】
歯を磨いたときに出血することがあります。
痛みはありません。
【治療】
毎日の適切なブラッシングで改善されます。
軽度歯周病(歯周ポケット:3mm~4mm)
【状態】
歯周ポケットが深くなり、歯垢(プラーク)や歯石が溜まります。
歯を支える歯槽骨が溶け始めます。
歯ぐきが赤く腫れ、ブヨブヨした状態になります。
【症状】
歯ぐきの炎症は歯ぐきのふちだけでなく横に広がっていき、発赤や腫れがはっきりと目に見えるようになります。
歯ぐきから血や膿が出ることがあります。
【治療】
歯科医院での歯石除去と歯磨きで進行を止めます。
中度歯周病(歯周ポケット:4mm~5mm)
【状態】
歯槽骨の1/3から2/3ほど溶け、歯がぐらついてきます。
炎症が広がり、歯肉の退縮が起こります。
【症状】
歯ぐきから血や膿が出て、口臭がきつくなります。
食事をすると歯の動きを感じるようになります。
歯と歯の間に隙間ができ、食べ物がはさまりやすくなります。
【治療】
歯科医院で歯石を除去し、歯周ポケットを掃除します。
ひどくなると外科的な治療(フラップ手術:歯ぐきを切開して歯石をとる)が必要となる場合があります。
重度歯周病(歯周ポケット:6mm以上)
【状態】
歯を支えている歯槽骨が破壊された状態です。
歯槽骨の2/3以上が溶け、歯根が露出しています。
歯を支えている歯周組織が破壊されると最終的には歯が抜けてしまいます。
【症状】
歯がグラグラして食べ物がかみにくくなり、かんだ時に違和感や痛みがあります。
また、歯ぐきが腫れて何もしなくても痛みを感じたり、膿がたまったりします。
歯槽骨が破壊され、歯の動揺が大きくなります。左右に動くだけでなく、沈み込むような動き方もします。
【治療】
歯科医院で歯石を除去し、歯周ポケットを掃除します。
外科的な治療を行うこともあります。
抜歯になる場合も多くあります。
歯周病を改善して予防する10の習慣
1. 正しいブラッシングを身に付ける
歯周病を改善するためには、まずブラッシングで歯から歯垢(プラーク)を取り除くことが大切です。
ブラッシングのコツは歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に当てること。
歯ブラシは鉛筆を握るように軽く持ち、できるだけ毛先が移動しないように前後に小刻みに動かして磨きます。
歯と歯の間は磨き残しが多い場所なので、歯間ブラシやデンタルフロス(糸ようじ)を使いましょう。
とはいえ、歯並びや口の中の状態は十人十色。
時間をかけて丁寧に磨いていても、歯周病が改善されない場合はブラッシング方法が間違っているのかもしれません。
信頼できる歯科医院で口の中を見てもらい、自分にあったブラッシング方法を指導してもらうことが正しいブラッシングへの近道です。
2. 自分に合った歯ブラシを選ぶ
歯ブラシの大きさ
奥歯や歯の裏側は、頬の粘膜や舌が邪魔して磨きにくいので、植毛部(ヘッド)が小さなものがおすすめです。
しかし、どうしても歯磨きの時間を長く取れない人は、短い時間でも効率よく磨けるよう植毛部の幅の広い少し大きめの歯ブラシを選択すると良いでしょう。
歯ブラシの硬さ
歯ブラシは一般的に「やわらかめ」「普通」「硬め」の3種類の硬さに分類されます。
歯ぐきが健康であれば、「普通」の硬さで問題ありません。
歯周病を患っている場合は、「やわらかめ」がおすすめです。
歯と歯ぐきの境目に軽い力で毛先を当てて磨くことで歯ぐきのマッサージ効果が得られます。
「硬め」の歯ブラシは、プラークをしっかり落とせる反面、間違った使い方をすると歯ぐきを傷つけてしまう可能性があります。握力が弱い人や、歯の質が強く歯ぐきも健康な人に適しています。
3. 歯ブラシの交換時期にも注意しよう
歯ブラシの質、使用回数、使い方などによって左右されるため一概には言えませんが、一日3回磨いた場合は1ヶ月に一度は交換したいものです。
特に毛先が広がった歯ブラシを使うときちんと歯に毛先が当たらないだけでなく、歯ぐきを傷つけてしまうこともあります。
歯ブラシを裏側から見て、毛先がはみ出ていたら交換のサインです。
4. デンタルフロス・歯間ブラシ・ワンタフトブラシを使う
歯ブラシだけでは歯間部(歯と歯の間)の歯垢を完全に除去することができません。
虫歯や歯周病の大部分は歯間部から始まるため、この部分の清掃がとても重要です。
デンタルフロス
健康な歯ぐきは、歯と歯の間の隙間が小さいため、デンタルフロスでの清掃が有効です。
「糸巻きタイプ」と「ホルダータイプ(柄付き)」とがあります。
歯間ブラシ
歯周病を患った歯ぐきは、歯間部が広く(隙間が大きく)なっているため、歯間ブラシでの清掃が適しています。
ワンタフトブラシ
八重歯などで歯の並びがガタガタしている部分がある人、矯正装置を使っている人、歯が抜けた部分がある人。また、妊娠中、つわりで大きな歯ブラシを入れるのが難しい人に適しています。
5. 歯科医院のメンテナンスに通う
歯石は自分で取り除くことができないため、歯科医院で定期的に除去してもらう必要があります。
特に虫歯ができにくい人は、歯に自信があるため歯科医院に通う習慣がありません。
その結果、歯周病の発見が遅れる傾向にあります。
定期的にメンテナンスを受けて、口の健康と全身の健康を保ちましょう。
6. 禁煙する
喫煙は白血球などの免疫力機能を低下させます。
免疫力が落ちることで、歯ぐきの細菌に対する抵抗力も落ち、歯周病に侵されやすくなります。
喫煙者は非喫煙者に比べ歯周病にかかる割合が2~9倍高いと報告されており、喫煙年数が長く本数が多いほど歯周病を悪化させます。
禁煙することで歯周病の進行を抑制し、歯周治療の効果が上がるため、現在喫煙されている方はできるだけ早く禁煙しましょう。
7. よく噛んで食べる
食物繊維を多く含む食べ物や硬い食べ物をよく噛んで食べると、食べ物で歯がこすられることによって清掃効果があります。
また、よく噛んで食べることによって唾液が分泌されるため、唾液が細菌を洗い流して、歯周病・虫歯・口臭予防に繋がります。
さらに、噛むことで歯と歯を支える歯槽骨が鍛えられ、歯を丈夫に保つことができます。
8. 栄養バランスが良い食事を摂る
「歯や骨を丈夫にするためにカルシウムを摂りなさい」と聞いて育った人は多いかもしれません。
しかし、カルシウムだけでは丈夫な骨を作ることはできません。
人間の体は様々な栄養素が助け合うことで体内機能が調整され健康が保たれているため、栄養バランスが偏った食事は歯周病のリスクを高めることにも繋がります。
特に、良質なタンパク質や、不足しがちなビタミン、ミネラルを豊富に含む食品を積極的に摂取し、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
9. ストレスを溜めない
抱えるストレスが多いと、体の免疫力が低下し、唾液の分泌量も減ってしまいます。
唾液には、口の中の細菌の繁殖を抑えたり、汚れを洗い流したりする働きがあるため、唾液の分泌量が減ると、歯周病・虫歯・口臭などを悪化させる原因になります。
ストレスをためやすい人は、軽いストレッチや筋トレ、趣味を持つなど、ストレスを発散できることを少しずつ取り入れてみましょう。
10. 鼻呼吸で口腔内の乾燥を防ぐ
口呼吸も、歯周病を悪化させる原因のひとつです。
口腔内が乾燥することで唾液が減り、唾液の力で口の中の細菌を洗い流すことができなくなって、細菌の繁殖を助けてしまうのです。
鼻炎や蓄膿症など鼻呼吸がしづらいことが原因で口呼吸になっている人は、耳鼻科を受診し、原因の元を治療しましょう。
歯並びや噛み合わせが原因で口を閉じにくい人は、歯科矯正も視野に入れ、口腔内のケアを行うと良いでしょう。
また、口周りの筋力低下によってポカンと口が開いてしまったり、口呼吸が癖になってしまっている人は、口を閉じることを意識すると同時に、口周りの筋肉を鍛えて鼻呼吸へ移行しましょう。
まとめ
いかがでしたか?
歯周病は、進行すると食事や会話に影響が出るだけでなく、全身の健康にも害を及ぼす可能性がある病気です。
虫歯と違って痛みを伴わないまま進行することが多く放置してしまいがちですが、大切な歯を一本でも多く残すため、そして体の健康を守るために、日頃の歯磨きや歯科医院での定期検診を心がけ、しっかり予防していきましょう。
三好さん(歯科衛生士)
東京都在住。実務経験15年以上のベテラン歯科衛生士。
現在も歯科医院に勤務し、より良い歯科医療を日々追及している。
・歯周病と健康のQ&A(医学情報社)
・歯医者に聞きたい歯の治療(一般財団法人 口腔保健協会)